音律事始め(00.07.03)
ピアノって常に伴奏に使われるが合唱やバイオリンの伴奏には向いていないのでは、と実は思っている。ちゃんと訓練された合唱団なら綺麗にハモるように音程を微調整するのだがピアノはそれが出来ず常に平均律に固定されている。つまりピアノと合唱の音程が合わないという事態が起こりうるのだ。平均律でも綺麗にハモってるじゃん、とも思うかも知れないが実は平均律では完璧なハーモニーというのは成立せず微妙にずれているのだ。例えば合唱で綺麗にドミソの音をハモらせたあとピアノでドミソの音を聴くととてもキタナイのだ。
科学的?に周波数で分析してみよう。ドの周波数を1とすると、綺麗にハモったときのミは5/4、ソは3/2となる。これいわゆる純正律だ。ごく自然にハモるので周波数の比率もシンプルだ。これに対し平均律のピアノだとドを1とするとミは1.2599(分数に出来ない)、ソは1.498くらいになる。ソは微妙かも知れないがミはかなり違うことになる。計算法はこう。平均律の場合1オクターブをきっちり12に分けるため、半音の刻みが1.05946309435929526456182529494634倍となる。この数字は2の12乗根、つまり12乗すると2になるわけだ。これで算出するとミやソが上記の値になる。平均律は皆で計算して貰うとして純正律の音階はこうなる。
ド |
レ |
ミ |
ファ |
ソ |
ラ |
シ |
1/1 |
9/8 |
5/4 |
4/3 |
3/2 |
5/3 |
15/8 |
この音律だとドミソは綺麗かも知れないが、ドとソが純正5度で響くくせにレとラが5度にならずハモらないというおかしな事が起こる。並びをよく見るとドーレ,ファーソが9/8なのにレーミが10/9という数字的矛盾もある。またこの音階でメロディを弾くとなんとも落ち着かない。ミが低すぎるのだ。
(9/8を大全音、10/9を小全音と呼称する。)
音律にはもう一つ有名なのにピタゴラス律というのがある。これはもっとも単純に響く5度音程(ドーソ、つまり周波数が1.5倍)を基本に構築した物だ。ドの1.5倍がソ、更に1.5倍してレ(ドから見て2.25倍だが1オクターブ下げて1.125倍)、更に1.5倍してラ、次がミといったようになる。
ちょっと余談。ここまで出たドソレラミを低い順に並べるとドレミソラ。いわゆるヨナ抜きの演歌になるのだ。五音音階、ペンタトニックの基本だ。
このようにして全部並べるとこうなる。
ド |
レ |
ミ |
ファ |
ソ |
ラ |
シ |
1/1 |
9/8 |
81/64 |
4/3 |
3/2 |
27/16 |
243/128 |
実はこの算出法だとファは求まらずファ#になってしまうのでファのみ後から置き換えてある。それはともかく一見しただけで純正律よりも比率が複雑なのがお解りだろう。しかしこれならドーレもレーミも9/8になる。ところがミ−ファ,シードの半音がおかしいのだ。純正律ではどちらも16/15だがピタゴラスではでは書くのもうざったくなる数字になってしまう。実はピタゴラスは1オクターブにきっちり収まらないという問題があるのだ。
そんな数字的矛盾を一気に解決したのが平均律なのである。このおかげで自由自在に音が使えるようになり大胆な転調も平気で行えるようになった。しかし、全てのハーモニーが悪くなってしまったのだ。音程を自分で作る声楽とかバイオリンとかは場合に応じて微調整するのが普通の筈だが一部の教育者はピアノで音を出して「この音!」とかいう。いかんなぁ。
「バッハが平均律広めたんじゃないか」という声もある。たしかに平均律クラヴィアなんて曲があるし00.06.02付けで紹介した楽典にもそのように出ている。だからワシもずっとそう思っていた(楽典は読み落としてたけど(笑))。しかしこれは誤訳だというのが通説となりつつあるようだ。実はこの曲の英語タイトルは”Well−Tempered”であり「よく整った」といった意味にしかならないのだ。平均律とは書いていないのでミーントーンかも知れないしキルンベルガーかも知れないしヴェルグマイスターかも知れない。というわけで「楽典 理論と応用 上田昭/春永裕子共著 全音音楽出版社」の推奨は取り下げる(笑)。
てなこと気にしつつもDTMではどうせ平均律でしかワシはやらない(やれない)。だって調性が変わるたびにスケールチューニングのエクスクルーシブ送るなんて面倒だよ。それに人間の耳は敏感であり鈍感なのだ。最初にも書いたがバイオリンにピアノ、合唱の伴奏にピアノ、という形態で音楽が成立しているのだ。ショパンはリサイタル時に調律を変えたピアノを複数台用意し弾き分けたという伝説もあるが現実的ではない。現在でもレコーディング時に曲毎に調律を変えたなんて話も聞くがライブでは現実的ではない。
音律およびスケールチューニングについては@niftyのFMIDICLAのページに詳しいから興味ある人は参考にしてみてはいかが?
今回かなり濃ゆいな。わかったかな?(ワシ自身まだよく判ってないのだが....)
いい加減なMIDI高座